響きの庭 Ⅱ 〜 5本のファゴットのための (2017)

ファゴット五重奏
13′

拍子や秒数などのような、ひとつの基準によって定められた単位によるのではなく、5人の奏者がお互いの音を認知することにより成立するアンサンブルを目的とした。奏者は自らの音を奏する際は常に「その瞬間の音あるいは間(休止)」に依存しており、5人のなかには中心となる存在は無くなり、互いに対等となる。

曲の構成は大きく二つに分けられ、前半は〈テーマと4つのバリエーション〉、後半は〈ゆらぎと共鳴〉である。
前半の〈テーマ〉となる部分ではひとつひとつの音は独立し、前後の音との能動的なつながりは、音の発せられるタイミングという点以外にはまだ表れない。そこから〈4つのバリエーション〉を通じて、一つのパートの中での点同士のつながりから、さらに他のパートへのつながりへと発展し、有機的なメロディを形成してゆく。
打ち寄せる波のようにパターンがくり返される部分から〈ゆらぎ〉が始まる。ただし、パターンごとに、奏者はいくつかの音あるいは休止から毎回選択するように設定されており、それによって生まれるハーモニーは偶然性を帯びる。そして最後の〈共鳴〉では、断片的なメロディが複数のパートで奏されるが、このメロディの形や長さはパートごとによってわずかに異なり、その「ずれ」が音色のグラデーションを生み出す。全てのパートがA音に収束し、曲が閉じられる。

ひび割れたアラベスクⅡ (2017)

ヴァイオリン独奏
4′

素材として選ばれているのは、ガラスのような軽やかさと透明感、それが叩きつけられたときのような衝撃とその乱反射というイメージを覚えさせるもの。
そして同時に、力強いダンスのようなエネルギーを加え、もし無機物が生命をもって踊りだすとどうなるか?という面白さを表現したいというのが、この作品の根底にあるコンセプトである。

モノクローム・アイビー (2016)

フルート、ファゴット、ピアノ
8′

ファゴット、フルート、そしてピアノという編成で何ができるかを考えたとき、ピアノの硬質な音による冷たい壁の上を、二本の木管がツタのように絡み合ったり離れたりしながら伸びていくというイメージが想起された。

パズル・リング (2015)

ピアノ独奏
5′-6′

「回る」、「巡って戻ってくる」というジェスチャーをテーマとした作品。
あるところでは音群がヨーヨーのように躍動感をもって行き来し、また別のところでは異なる複数の要素が歯車のように噛み合って動き続ける。

星筐(ほしがたみ) (2014)

ソプラノサクソフォン、チェロ、ピアノ
5′-6′

異なる性格の3つの楽曲から成る小品集。

I. Largo
II. Risoluto
III. Scherzando

ひかりがそらにばかりあったころ (2014)

ヴァイオリン、ピアノ
4′

溟渤を織る星の糸 (2014; 2015)

オーケストラ
5′

かつて夜空というものは、あるところでは天空の一面をおおう一枚の巨大なタペストリーと言われ、またあるところでは金銀に輝く無数の舟が流れつづける広大な海と言われていた。太陽が沈んだあとの群青色の空とまたたく星粒というものは、古代から人を魅了してやまないものであっただろう。この作品は、そういった夜空そのものの美しさとそれにまつわる様々な想像を、そのまま一枚の絵に描くように作った音楽である。

下地には、我々にも身近な十二星座の恒星の明るさや大きさ、位置、地球からの距離などを数値化したデータが使われている。そこから生まれた音群はばらばらに独立しているようにも、お互いに干渉しているようにも振る舞い、曲のはじめから終わりにかけてひとつのグラデーションを織りなす。

響きの庭 (2012)

打楽器五重奏
12′

第一楽章 「日」

第二楽章 「月」

さびしきみち (2011)

声(アルト)、ハープ
8′-9′

高村光太郎の同名の詩による歌曲。

緒 (2009-2010; 2014)

チェロ、ピアノ
13′

「緒」という漢字には、「糸やひもなど細長いもの」「楽器の弦」「長く続くもの」「魂をつなぐもの」「物事のはじめ」という意味が含まれているが、これらはそのままこの作品のコンセプトにつながる。この楽曲は私にとって、創作していくひとつのスタート地点にあたるものである。

音楽の基本要素のひとつにあたる旋律のふるまいに注目したものであり、以下の三つの楽章ごとに旋律のあり方や関係性が変わってゆく。

I. Aria … 一本の長い旋律
II. Fughetta … 二本以上の旋律が絡み合う
III. Choral … 二本以上の旋律が同時に響く